HiFiMAN RE800 Silver Pentacon Earによるデタッチャブル化 &MMCXについて

今回はHiFiMAN RE800 SilverをPentaconn Earでデタッチャブル化するご依頼をいただきましたのを書きたいと思います。

 

RE800 Silver

RE800jはMMCXコネクタで最初からケーブル着脱式のイヤホンですが、このblogをご覧いただいている皆さんならMMCXの脆弱性については有る程度ご存知だと思います。

いきなりですが・・
SHUREがMMCXをイヤホンに転用し、デファクトスタンダードになりました。
デファクトスタンダードとは「事実上のスタンダード」です。
デ ファクト で、真実を欠いた・・でしょうか。
先やっちゃったモン勝ちを表すものですが、元々、MMCXは無線用のコネクタで、機器内部などで静置して使われるものです。
これをイヤホン用にそのまま転用してしまったので、色々と不具合が出ます。

E4UAでMMCXプラグアダプタをご購入いただいたりMMCXによるデタッチャブル化などをご依頼いただいた方には、私が書いたMMCXの使用方法を同梱しています。
それと同じような事(&もっと突っ込んで)をここにも書いてみますね。

MMCXの脆弱性は、メス側の中心接点にあります。

メス側の中心接点は、バネ性のある金属の筒を縦に割ってすぼめた、ソケット形状をしています。
この割ったソケットの隙間に、オス側の中心接点(ピン形状)が滑りこんで接続が完了します。
超小型なMMCX(Micro Miniature CoaXial connector)は、このメス側の中心接点に機械的強度が殆どありません。

もし、オス側プラグ(中心接点はピン形状)を斜めから挿入すると、メス側中心接点をピンが斜めから押してしまい、曲がってしまう事が有ります。
曲がった中心接点は、運が良ければ戻す事ができますが、バネ性のある金属は大きく曲げられてそれを戻すと金属疲労が溜まって折れてしまいます。

割った筒ですので、片側が折れてどっか行っちゃっても接触する事ができて、音は鳴る事もありますが回転させると鳴ったり鳴らなかったりします。
両側折れると接触する事ができなくなりますので音は鳴りません。

上記のようにソケット側には機械的強度が有りません。
今までに無線用のコネクタをヘッドホンに転用したのは、HiFiMANがHE400やHE600などのシリーズで無線用のSMCコネクタを使ったものが有りました。これらは後に2.5mm2極プラグでの接続に変わっていき、今もこの接続方式が採られていると思います。
ですがこのHiFiMANが採用したSMCコネクタの中心接点は雌雄が逆のカスタムモデルを使用しており、劣化の起きやすいソケットをケーブル側にしていました。

この ”ソケット&ピン” という方式はMMCX以外のオーディオ用同軸接続規格でも同じ事をやっているのですが、決定的な違いはオス側にソケットが有り、メス側はピン形状になっている事です。

estronのT2(IPX)も、audio-technicaのA2DCも、日本ディックスのPentaconnEarも、イヤホン側になるメス側の中心接点はピン形状です。
ピン形状である事で劣化は起きにくく、これらのオーディオ用に設計されたコネクタは特にメス側はイヤホン側に使用されますが、寿命がとても長いのです。
これは即ち、イヤホンそのものが壊れてしまう事(コネクタの故障)が少ないという事です。

ケーブル側は劣化しやすいソケット形状ですが、ケーブルは断線する事も有りますし、交換する事が可能な設計になっていて理にかなっていますね。
プラグ(ケーブル)側の中心接点は、T2とA2DCは割った筒形状、PentaconEarは曲げた板バネで作られており、最後発のPentaconnEarが最も簡略化されています。
割った筒か、曲げた板バネか、どっちが良いかは置いておきます。
多分どっちも良いものだと思いますから。

このソケット側をイヤホン側に、MMCXの標準規格でそのまま持ってきてしまったのがSHUREの罪です。

audio-technicaはこれを嫌って、MMCXが流行っている中イヤホン側にプラグ(中心接点はピン)を持ってきたりしました。ATH-CK100PROですね。
その後もATH-IMのシリーズでは独自2ピン(イヤホン側はピン)を作ったりしましたが、やはり同軸接続は回転する事ができますので、オーディオ用には便利なのですよね。
で、作りだしたのがA2DCです。
A2DCはシュリンク(小型化)し、中心接点の雌雄を逆配置した無線用のMCXコネクタです。
元の規格が有るという所も、製造しやすさとか使いやすさとかに繋がっているのだと思います。
散々紆余曲折して作り上げたシステムですから、早々変更する事は無い・・
と思いたい。
audio-technicaさん、頼みますよ。
純銅ピンバージョン出してくれなんて言いませんから、そのままで居てください。

estronはT2コネクタを作り、UEに採用されてIPXとなり、今はT2がTaronにアップグレード・・されたのかな?
超超小型のイヤホン用コネクタで、国内のIEMメーカーでも採用されていますね。
T2 Talonを触ってみた事が有りますが、今までのT2が結構回転しやすかったのがかなり改善されていました。
いかんせん流通が全く無いのでE4UAでも在庫していません。
上の写真のはestronの方より、祭りの時に頂いたものです。
もっと欲しいっちゃ欲しいんですが、MOQが多いとE4UAのようなガレージメーカーは手が出し辛いですね・・

PentaconnEarは4.4mm5極プラグの元を作った日本ディックスが、Pentaconnの名称をその他のプラグ・・2.5mm4極や3.5mm3極&4極、6.3mm3極に展開した後、さらにイヤホン用コネクタも作り、販売するものですね。
Pentaconnは4.4mm5極の ”5” に由来すると思っていたのに、ブランド名にいつの間にかなっていたのは・・まぁ細かい事は置いておきましょうね。
寸法的にはMMCX同等、構造が簡略化されていて製造しやすいのだと思います。
メス側はT2(値段分からない)、A2DC(中華製で1800円/2個)より安く設定されています。
逆にプラグは黄銅版で3300円とかなり高価、日本ディックスらしい価格設定だと思います。
まぁ浸透してきたら、もう少し安いのも出てくるのかな?

ここでイヤホン側に使用されるメス側の寿命を考えてみると、
A2DCのジャック(メス側)にはバネ要素が無いので、ジャック側の寿命では最も長い事が考えられ、プラグ(オス側)の中心接点・外周接点共に劣化が想定されるバネ構造が採られており、一番理にかなっているように思います。
T2とPentaconnEarは外周電極の固定がジャック側のバネ接点で行われていますので、A2DCに比べると寿命は短い可能性が有ります。

まだまだ出てきたばかりの規格なので、それぞれ、今後に期待ですね。

 

っと話が逸れまくりましたね。
いつか書きたい書きたいと思っていた事なので、長くなってしまいました。

このRE800 Silverも、当初はMMCXでのデタッチャブル化をお考えでしたが、MMCXの脆弱性について少し説明させていただいて、ご自分でも調べていただき、PentaconnEarかA2DCでのデタッチャブル化を希望されました。
A2DCとPentaconnEarの違いは、寸法や寿命などを除けばA2DCはaudio-technicaの専売、PentaconnEarは日本ディックスが作った規格という所で、PentaconnEarの方が開かれた規格と言えます。
開かれた規格は残りますから、今は黎明期でもあり対応するリケーブルも市場には少ないですが今後に期待する事ができます。
そして今回は、このPentaconnEarでのデタッチャブル化をご指定いただきました。

Pentaconn Earジャック(イヤホン側・メス)は黄銅版で、赤・青の左右を識別しやすいものをチョイスされました。
イヤホン本体は分解の後、Pentaconn Earジャックを挿入し内部を接着剤で固化、内部配線は純正流用としています。

また同時に専用ケーブル製作のご依頼もいただきました。
線材はBelden1804Aでブラックのナイロン編組チューブ仕上げ、ヘッドホン側はPentaconn Earの黄銅プラグ、アンプ側は3.5mm4極(HiFiMAN バランス!)でオヤイデ P-3.5/4Gのプラグ軸とNobunagaLabsのNLP-PRO-IS25のボディをニコイチしたキメラプラグ、シボブラックのYスプリッターを配しました。

線材は、
”純正ケーブルはシンバル・ハイハットが少し乾いている印象なのでそこにツヤや潤いを補った感じ”
とご希望をいただきましたが、純正は多分銅リッツ線だろうな思っていましたが、ダイナミック1発のイヤホンに銀メッキ入れたら綺麗になりそう!と考えてBelden1804Aをお勧めさせていただきました。
イヤホン側はPentaconnEarの黄銅プラグで黒ボディでしたので、アンプ側も黒ボディが良いかなーと思い、さらに製作のご依頼いただいたケーブルは全長75cm程度と、胸ポケット運用されてるのかな?と思い、アンプ側プラグは小さい方が良いよね~と、勝手にオヤイデP-3.5/4G軸とNLP-PRO-IS25ボディのニコイチを設定させてもらいました。
NLP-PRO-IS25のボディはかなり小型でオヤイデのプラグとネジピッチが同じなので簡単に黒ボディの小型なプラグが作りだせます。
シボブラックのYスプリッターcと合わせて黒で統一されたケーブルは人目につきづらく、自分だけが知る高品質を体感していただけるものになっています。

 

ご感想をいただきました

まず、デタッチャブル化は後付け感がなくて工作精度が高く仕上がりがキレイですね。
PentaconnEarプラグも固すぎず適度な抜きやすさがあって脱着が容易でした。しっかりはまって空回りしないので接点不良を起こすことも皆無だと思います。

製作していただいたバランスケーブルで聴くと、純正ケーブルよりも乾き・眠さがなくなり輪郭が定まって楽曲に集中できます。おすすめいただいた線材の音質も変な癖がなくて私の好みに合っていて、アルミ筐体のRE800 Silverの音の軽快さも失われず満足です。

丁寧でわかりやすいメールのやり取りで完成形が見えてくる様は、ビスポークテーラーのようで楽しかったです(笑)。複数案件が同時進行していると思うので、E4UAさんは大変だと思いますが…。 

また、その後の会話で

私も純正でも全然悪くない音だと思ってましたが、製作していただいたケーブルで聴くと「定価通り(¥62500)のイヤホンの音だな」と感じました。 

とのご感想もいただきました。
MMCXはあのヘンテコな形がどうもね・・元は切り欠きのある基板に嵌めて半田付けする為の形状なのをそのまま持ってきただけですから。
PentaconnEarはイヤホンに搭載される事を想定して設計・製造されているものですから、完成度も勿論上がりますね。
線材のチョイスも間違っていなかったようで、Belden1804AでリケーブルしたRE800 Silverは、価格通りの音となったようです。

ビスポークテーラーって知らなかったのですが、E4UAはテーラーな所有るかもしれませんね。
ありがとうございました。